2017年11月25日土曜日

ミスiD2018、というか「えもゆす」について



ご無沙汰しております。

昨年に続き、今年もミスiDを定期的にチェックした。
もう終わってしまったけど、個人的に推していた(というか今も推している)女子について書こうと思う。
名前は「朴ゆすら(えのもと ゆすら)」、通称「えもゆす」。

--【ミスiDとは】――――――――――――――――--
講談社が主催する「まだ見たことのない女の子を探す」コンテスト。
いわゆる芸能事務所のオーディションのような「今の芸能界で売れる条件を満たしている子」「最大公約数に受けそうな子」を発掘するものとは一線を画した斬新なコンテストで、候補者のキャラとプロフィールがバラエティに富んでいるので、見てて楽しい。

認知度を上げたい現役のアイドルもいれば、自分の可能性を試したい・自分を変えたいと応募してくる一般人の女の子もいるし、女子の心を持った男子もいる。
ジュニアアイドルやAV女優としての活動歴など、大手芸能事務所の選考ではマイナスになるような過去を持っている子も、むしろそれを武器にして人の心を掴んでいったりするから本当に面白い。
選考期間中に起こるいくつものドラマをSNSで目撃して感動するうち、気付けば病みつきに。
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ミスiDでは、2回の審査(書類/SNSを使った選考 + カメラテスト)を突破した100人超の「セミファイナリスト」が7月にお披露目され、YouTubeにそれぞれのPR動画がアップされる。
この動画の中で、インスタント焼きそばを作って食べながら喋るという、前例のない自己PRをしていたのがえもゆすだった。


この時点で彼女は17歳、現役の高3。
小柄ですらっとした体型で、やや茶色っぽい髪はちゃんとセットされている。
顔立ちも整っているし、少し垂れ気味の二重の目は優しい印象で、客観的に見れば「可愛いJK」としての価値は十分にある。

しかし、敢えて制服ではなく部屋着姿で登場した彼女が動画の中で見せていたのは、自分と自分を取り巻く世界への冷めた眼差しだった。
インスタント焼きそばにお湯を注いでから3分経った時、彼女は完成した焼きそばを箸でつまみ上げ、こちらを小馬鹿にしたような笑みを浮かべて「ほらーJKが作った焼きそばだよー。欲しいかー?」というようなことを言いながら箸をかざした。
「JKだから」という理由で自分たちをちやほやしてくる世間(特に男)、そしてそれに乗せられていい気になってしまう自分自身をもドライに俯瞰している彼女の内面世界に触れ、はっとさせられた。

自分には特技と言えるようなものがない。焼きそばくらいは作れるけど。
ぼっちは努力が足りないと思う。自分には友達がいるし、高校生活は楽しい。
でも高校時代はずっと続かない。楽しい時代が終わったから自殺しよう、みたいな覚悟も自分にはない。何かを見つけたい。
焼きそばを作って食べながら、彼女はそんなことを語った。

放課後はプリクラに群がって騒いでるような華やかな子たちも、友達と離れて一人になった瞬間に、こんなことを思ったりするのか。
一人の女の子のモラトリアムの終わりに図らずも立ち会ってしまい、凄いものを見せられている! と感じた。
見終わってからも衝撃の余韻は続き、これはもう推すしかないね、という結論に達した。

プロフィールを見ると、けっこう読書家で、好きな本の一番最初に夢野久作「死後の恋」を持ってくる辺りがマニアックな印象。
他の子は「君の膵臓をたべたい」とかなのに。
(ちなみに好きな本の欄にこれを書いた子は3人ぐらいいたけど、うち2人は「君の膵臓食べたい」とか表記が正確でなく、ガチの本好きではないとみられる。)

そしてブログの文章がしっかりしている。
てにおはレベルの間違いなどはないし、変換ミスも少ない。
練炭自殺のことを「アロマディフューザー練炭の香り」と表現するあたり、センスが光る。
「スタバのマグに書いてもらえるメッセージみたいに、あれば嬉しいけど、別になくても困らない」みたいなことを書いた部分からも、自分の身の回りにあるものを深く見つめる感性が垣間見えて、才能を感じる。
(長い上に、改行が少なくて読みにくいので、サービス精神は感じないけど。ただ「私の文体なんで」って言い切るというのも表現者としてのやり方ではある。)

書かれている内容は決して穏やかではなく、母親との殺伐とした関係、放課後はイベントに積極的に通い「経験を積んで」過ごしたこれまでの高校時代、メンタルが安定せず遅刻が多いこと、自分の先行きに対する不安などが、カオスな文体で、フルボリュームで綴られている。
理由は明確に書かれていないが、自責の念があるらしく、「自分は48歳で死ぬ」という決意が何度か出てくる。
過去のトラウマが原因のように読めるものの、書かれていることのどれが実際に起きたことでどこからが比喩なのかが判然としないため、この辺はよく分からない。

ツイッターの自撮りでは、えもゆすは髪の色が明るくてスカートが短い、本当に今時のJKだ。
この見た目の子が書く文というと、「それな」「クッソワロタwwwwwwwwwww」みたいな短いやつを思い浮かべてしまうが、こんなに書きたいことがあったのか。ギャップが凄い。
呟き自体も「私は性悪説派だよ」とか棘のある言葉がふっと出たりして、見ていて面白かった。
えもゆすが、JK仲間の世界で受け止めてもらえないようなものを表現する場を獲得できたことを、異様に嬉しく感じた。
ミスiDに出たことで、これまでやり場のなかった彼女の言葉が読者を獲得したというのが感動的だ。

最終的に、彼女は見事「大山卓也賞」(審査員・大山卓也が、印象的だった子に贈る賞)に輝いた。
彼女の国語力&表現力は、ずっと編集の仕事をしてきて「ナタリー」を10年やり続けた人にも刺さったということだ。
快挙◎おめでとう!

彼女のブログには、友達が口々に「JKというだけで男はブランド物とか色々買ってくれて割がいい」「高校卒業したくない」と言う様子が書かれている。
えもゆすが生きている世界では、「若さと美貌で金を持っている男の心を掴み、経済的に不自由なく暮らせるようになることが女としての成功である」という価値観が支配的、ということだろう。
(彼女にとって大切な存在である友達を否定するように読めてしまったら心苦しいが…でもそれが率直な印象。)

しかしブログを読む限り、えもゆすの願望は「男に認められたい」ではなく「自分で自分のあり方に納得したい」である。
社会(or沢山の個人)にとって価値のあるもの(言葉?)を提供し、それに対する対価をもらって生きてゆくのが、彼女にとっての理想なのだと思う。
ただ、恐らく彼女には、社会にとって価値のあるもの(※男受けする美貌を除く)をどう生産するのかを本気で学んでこなかったという負い目がある。
だからこそ、若さと美貌で世間を渡ってゆくという生き方が、自分にとって一番現実的なのだという思考に陥りかけていたのではないか。
誰かにとって価値のあるものを創る存在になりたい。でも、そんなことが可能なのか。
PR動画に映っていたのは、そんな葛藤のように思える。

だから、自分が持っているJKブランド以外の価値を模索していたえもゆすに対して、編集のプロが「あなたの武器は若さではない」「いつか一緒に仕事がしてみたい」と言った意味は大きい。
要するにこれは、社会に対して影響力のある男にくっついておこぼれに与る人生ではなく、自分が社会or沢山の個人と直接関わって何かを生み出す人生を目指してみないか、というメッセージだと思う。
あなたにはそういう素質があるんだよ、という。

なので、彼女には今後も言葉による表現を続けてほしいし、周囲の声に流されて自分を見失ってほしくない。
(彼女が被写体をやった写真展に行って、激励レター&受験に利くお守りを渡したりしたのも、それを伝えたかったからなんですよ。伝わってるか分からないけど。)

世界を変えるために、ぼっちになる時が来たのだ、えもゆす!

追)本当は今日「ミスiDお披露目会」で本人に直接受賞おめでとうを言いたかったのだが、立て込んでいて無理だったので罪滅ぼし的にこの記事を書いています。
まずは受験頑張ってね。

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