2017年1月31日火曜日

コンドルズ、永遠の男子たち~学ラン脱がずに20年~


コンドルズの公演『20 Century Toy』を見に行った。
人生初の生コンドルズ。

高校の頃だったと思うが、今はもう廃刊になってしまった雑誌『MUTTS』で、学ランで踊る男性コンテンポラリーダンス集団がいるという小さい記事を読み、彼らのことを知った。数年が経ち、NHKの深夜番組『サラリーマンNEO』内のコーナー『サラリーマン体操』でコンドルズのメンバー数人が踊っているのを発見し、本気の公演はどんな感じなんだろう、見てみたいと思った。ダンサー=キレキレの動き、というイメージがあるけど、彼らのダンスは程よくユルく、笑いがあり、たまに怪しかった(ピアノ担当の石渕聡っていう人の表情が特に)。

でもコンテンポラリーダンスを見る習慣がない私は、彼らがどのくらいの頻度で公演を打っているのか分からず、何か見に行きたいと思い立っても情報が手に入りやすいミュージシャンのライブに行ってしまうことが多かった。今回ちょうど良いタイミングで公演情報をキャッチし、東京芸術劇場ならそれほど遠くないし行ってみるか~と思ってチケットを買ったわけなんです。
ちなみに公演のタイトル『20 Century Toy』は、コンドルズが旗揚げ20周年であることに由来している。20年。赤子が成人してしまうほどの長い年月、彼らは、学ランで、踊り続けた……。考えてみると凄い。

で、当日。
薄暗い会場に入り、席へ。後ろの方だけど、ちょうど舞台を真正面から見られる好位置◎
驚いたのは親子連れの多さ。チケットをよく見ると、「0歳児から入場可。3歳以下は膝上鑑賞無料(席が必要な場合は有料)」の文字が!
照明が落ちて案内が流れ始めると、子供が声を出して鑑賞しても全然OKという公演のコンセプトが説明される。そんなんあるのか。コンテンポラリーダンスは一つの芸術であり、ダンサーの繊細な動き、衣擦れの音まで漏らさず鑑賞すべき、会話厳禁、みたいな人達もいると思うんですが、コンドルズの場合はむしろ声を上げて笑ってOKなのか。いわゆる芸術っぽさとは対極の、アットホームな雰囲気に驚く。

しばらくして、ステージの照明がオン、音楽が流れ始める。学ランの男性が十数人、3~4列に並んで踊り出す。おお、これが噂の……!! どう見ても学生時代を終えてる成人男性たちの学ラン姿に、なんか笑う。
「ずいぶんバラバラだなぁ」というのが、ダンスの第一印象だった。脚の上がる角度やターンの速さといった動きの点でもそうだし、身長や体格、そしてヘアスタイルが……。黒が多いけど、赤、シルバー、金パでロン毛、、スキンヘッド、各種取り揃えてお待ちしております。な感じ。金パでロン毛の人は必然的に髪がなびくため、不揃い感が強め。
「ウエストサイドストーリー」みたいな、ダンサーが脚を上げる角度が全員そろっている状態をグループダンスの頂点とするなら、このバラついてる感じって微妙なんじゃ、という思いがよぎる。

しかし不思議なことに、その無秩序っぷりが、徐々に楽しくなってくる。何というか、男子校の体育祭の応援ダンスタイム(そんなんあるのか)を特別に見せてもらってるような、集団全体じゃなく踊ってる一人一人を見る楽しさに気付くのだ。
あの人キレキレだなぁ。あの人は体格いいし、同じ振りをやってもコワモテだ。小粒な人もいる。ぽっちゃりめな人、すらっとした人。リズムの取り方も、アクセントになる音が鳴った瞬間にバシッとポーズを決める人、半秒置いてポーズをとる人、色々だ。最初は鑑賞モードだったのが、だんだん力が抜けてくる。
そうだよな。誰でも、踊りたいと思った人は、踊ればいいんだ。「脚が真っすぐ上がらない奴は踊っちゃダメ」とか「このタイミングでポーズが決まってないと失格」とか言い始めると、全身で音と戯れる楽しさからどんどん遠ざかっていくもんなぁ。人が踊る原点について思いを馳せてしまう。

コンドルズだし鳥の写真にしよう、と思ったらハトのしかねぇ

学ランタイムが終わり、その後はコント、白シャツ+ズボン姿の芸術性高めなダンス、二人がマシュマロをトスして食べられたり食べられなかったりする無言劇、操り人形を使った笑えるダンス、セサミストリートのパクリ『スサム(荒む)ストリート』、組体操で富士山やお屠蘇の急須などのシルエットを作る余興、舞台の上に設置したカメラを使ったパフォーマンス、アニメーションなどなどが盛り沢山。
本気で遊ぶ大人の男子たちは輝いている。いいなぁ。人生にこんな時間があるなんて羨ましすぎる。

印象的だったのは、やっぱりコント。子役事務所『劇団サンフラワー』を舞台に、子役と熱血社長、彼らを見守る近所の居酒屋のおばちゃんの物語が展開される(ライバルイケメン子役も少しだけ登場)。
どう見ても30過ぎてるオッサン4人が、ピチピチのTシャツや半袖シャツに短パン姿で子役に徹してる違和感……。事務所社長(モデルは坂上忍かなぁ)の「泣け!! 最近一番悲しかったことをイメージするんだ! 具体的に!」という罵声に「うわーん」と泣く演技を始める大きなおともだち、という図が強烈。
子役業界にイケメンの波が押し寄せ、サンフラワーの稼ぎ頭ヤマモトくん(坊主キャラ)は、ライバル事務所のイケメン子役・カトリに仕事を取られてしまう。わずか五歳で世間に捨てられたと感じ、自暴自棄になるヤマモトくん。近所で居酒屋を営むおばちゃんは彼を哀れに思い、つまみとノンアルコールビールを出してやる。いつしかヤマモトくんは店の常連に。
ヤマモトくんが仕事にあぶれたサンフラワーの子役二人と店を訪れ、ノンアルコールビールで一杯やっているところに(子供なのにサマになりすぎ)、事務所の社長が迎えに来る。人生への絶望を吐露するヤマモトくんに、「俺は絶対にお前を見捨てたりしない!!」と熱く語りかける社長。希望を取り戻したヤマモトくんと子役たちは、心機一転、演技の練習を始めるのだった。いつか、輝く日のために……。
良い話だなぁ。でも何だろう、この釈然としない感じ。

もう一つ、わりと真面目なダンスの中で、個人的にものすごくツボだったものがあった。
舞台の左手前から右奥に向かって、人が3列になって歩いてゆく。右奥からも、人が左手前に向かって3列で歩いてくる。奥に進む人と手前に向かう人がぶつかるところで、様々なドラマがある。
お互い手を差し出して、握手をしながらくるっと回って別れるペア。大きい方が小さいほうの身体をひょいっと持ち上げて地面に下ろし、小さいほうはされるがままになってしまうペア。一人が相手の顔に張り手をしながら向かってきて、もう一人はよけるしかないペア。長方形のステージのあちこちで展開される、沢山の、多種多様な出会いと別れ……何だか、私たちの生きる世界そのものだ。
手を取り合うこともあれば、力関係が生まれることもある。拒んだり、拒まれたりすることもある。私たちは一つ一つの関係性に一喜一憂するけれど、人と人が出会うというのはそういうことなんだよ、という一歩引いた視点が、ステージの根底に流れている気がした。深い。
さっきまでの笑いが消し飛び、しみじみしてしまった。

バラエティ豊かなステージが終わり、フィナーレ。学ランの男たちが一列に並び、一斉に頭を下げる。
黒、赤、金パ、シルバー、スキンヘッド、パーマあり/なし……頭の個性が際立つ瞬間。金パでロングの髪がバサーっと垂れ下がる様子はラーメンのようで楽しい。
続いて短めのアフタートークがあり、コンドルズ20周年記念ムックを会場で買うと、主催の近藤良平さんからサインがもらえるという告知が。今日初めて見たんだから「20周年へのファンとしての感慨」とか一切ないんだけど、サイン欲しさに買ってしまった。
近藤さんは気さくな感じで握手までしてくださり、「サラリーマンネオで見て、来たいと思ってました」と言ったら「あ、じゃあ初めてですね」と返してくれた。嬉しい。

ぐるっぽ(←諦め)

ムックを読むと、「ダンスで食っていくのは大変だから、メンバーには兼業・副業を推奨している」「練習しすぎないようにする」など、コンドルズ独自のポリシーが書かれていて興味深い。
各メンバーの別の仕事も、大学の先生、会社役員、ヨガマスター/予備校講師、実家の民宿を継いだ、書家、など多種多様。それぞれの生き方を尊重しつつ、まとまる時はまとまるって感じか。
好きなことをできる形で続ける人生のお手本を見せてもらった気分。予想に反して、勉強になります。

年明けにエネルギーをもらえた。見てよかった。
そして私も動きたくなる。今度ジムのエアロビクスにまた行こう……。