2017年3月7日火曜日

白シャツ考


 
この前本屋で『my LIFE my STANDARD』という本を衝動買いした。オンワード樫山のブランド・23区の23周年を記念したムックで、スタイリスト・フードコーディネーター・作家など様々なジャンルのプロたちが女性の人生を豊かにする23のスタンダード(習慣)を提案するというコンセプトで作られたもの。提案はファッションだけでなく、料理や音楽、余暇の過ごし方まで多岐に亘る。
提案の一つに、スタイリスト・飯島朋子さんの「白いシャツを愛でる。」というのがあった。白いシャツは店で実際に手に取って選んだ方がいいよというアドバイスと、新しい白シャツの着方のアイデア(ボタンを留める位置を変えてみる/腰に巻く/別のシャツとボタンを繋げて不思議なシルエットを楽しむ…など)が紹介されていた。
そういえば昨年末、私も白シャツについて真剣に考えたのだった。記憶が蘇ったついでに、その時のことを書いてみる。

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年末の大掃除で、一人暮らしを始めて五年近く整理しなかったクロゼットを、遂に片付けた。大学生の頃に買った服なんかはもう着ることがなさそうなデザインのものもあり、最終的にゴミ袋(大)2~3個分の服を捨てた。
捨てる服と残す服を選り分ける作業中、タンスの中から一枚の白シャツが現れた。就職活動の時に買った、スーツカンパニーの長袖シャツ。スタンダードなアイテムのはずなのに、何故か何年も袖を通さないままだった。カーディガンの下に着るとか、いくらでも着回しできそうなものなのに。
私は、何でこれを着ようと思わなかったのか。シャツをじっと見ているうちに、少しずつ理由が分かってきた。そのシャツの襟は大きく、糊が利いていて、尖り気味だ。就活用に売られているシャツはみんなそうなので、私も何の疑問もなくそれを買った。このシャツをスーツの下に着ている時は、何の違和感もなかった。当然、働き出してからも着るだろうと思っていた。

噂の就活シャツ

でも、セーターやカーディガンの下に着た時のことを思い出すと…襟ばかり主張してしまって、何となく収まりが悪かった。ボタンが小さめなクルーネックのカーディガンと合わせた時は特に、襟の大きさとボタンの小ささが、どこかちぐはぐな印象だった。そうか、それが、このシャツを手に取らなくなった理由なんだ…。「白シャツ=着回しできる万能アイテム」という刷り込みのせいでずっと捨てずに取っておいたが、私の潜在意識の中には確かに、このシャツへの違和感があった。

遂に、このシャツを捨てるべき時が来た。就活目的で買った惰性の白シャツではなく、本当に使える白シャツを買おう――。悟りの境地に達した私は、白シャツを手に取り、捨てる服の山に重ねた…。
年が明け、私は自分が思い描く白シャツを探し始めた。家でパソコンを開いて、メールチェックなどの作業が終わると服の通販サイトに飛び、ひたすら白シャツばかり見る日々が始まった。
スタンダードなアイテムなので、どのサイトでも白シャツは売られている。しかし、だからこそ、自分が求めているデザインを見つけるのは至難の業だ。「シャツ」「白」でソートしても、無限に候補が出てきてしまう。白の種類も、蛍光灯のような青みがかった白から生成りっぽい白まで、かなり幅広いことに気付く。

私が欲しいと思っていたのは、しっかりした生地で作られた、程よく堅いシルエットの白シャツだ。色は洗濯物のCMに出てくるような、青さも生成りっぽさもない純粋な白。会社に着ていけるかっちり感はほしいが、大きくて尖った襟でデキる女アピールするのは嫌だ(勝間和代的な)。

うん、やっぱ襟尖ってる

ベーシックなアイテムだからこそ、今度こそは納得のいくものを買って、ずっと着たい。劣化したら同じデザインのものをまた買って着続けたいと思えるものが欲しい。妥協はしない。とことん探す!

白シャツの無限地獄を、私は何週間も彷徨った。New YorkerとかNatural Beauty BasicとかMARGARET HOWELLとか、ベーシックな服を作っていそうなブランドの名前を思い付く限り検索し、通販サイトのスクロールを繰り返す。しかしピンと来るものはなかなかない。

襟が丸すぎて、会社に着て行くのは子供っぽいなぁとか。


ナチュラルな感じは可愛いけど、生地が薄すぎてすぐ皺になりそうだなぁとか。


ちょっと襟が小さくてイメージと違うなぁとか。


だが遂に、私は出会った。運命の白シャツに。

MY DESTINY
逃れ逃れ辿り着いたMACKINTOSH PHILOSOPHYのサイトに、この子はいた…。
襟の形が、本当に絶妙。
尖ってないけど、丸襟じゃない。角を丸めたカードのような、柔らかいけど芯のあるフォルム。
仕事はしっかりやるけど、ユーモアも分かるお姉さんみたいな。
これだよ。これですよ。パソコン前で一人、ガッツポーズ。

飯島さんに言われた通り、店に行って試着し、購入。
生地の硬さもちょうどよかった。着た後に皺伸ばしスプレーをしておけば、その都度アイロンがけしなくても何とかなるだろう。
案の定、このシャツは平日・土日を問わず、大活躍してくれている。
もし今の白シャツが駄目になった時は、絶対同じ形のやつを買う。私の定番でいてもらう。

この経験を通して、ありふれている故に奥深い白シャツの世界を思い知らされた。
自分が着たい白シャツを突き詰めることで、自分がどうありたいかまで見えてきてしまうとは…。
私が選ばなかった白シャツも、誰かにとっては運命の一枚なのかもしれない。通販サイトで目にした、似ているようで少しずつ違う白シャツたちは、どんな人に選ばれてゆくのだろう。想像するとちょっと楽しい。

「マイ白シャツ」を見つける旅、おすすめです。